(続)とある最底辺歯科医の戯れ言集

日本語が不自由な歯科医師のろくでもないお話 

日本人技工士の希少化問題はさらに深刻な状況に

以前にも書きました

 去年の8月に歯科技工士に関するブログを書いた。

 

若い世代で歯科技工士の志望者は加速度的に減少している。

技工士学校は定員割れが殆どで深刻な充足率に陥り廃校を余儀なくされる学校も続出した。

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技工士学校入学者推移

当然だが歯科技工士の国家試験に合格する人数も確実に減少しており、ついに平成28年度には1000人の大台を割った。

そして大きな問題が離職率である。

20代での離職率は80%以上と言われ、今の状態では若い世代は殆ど残らないことになる。

今年の技工士国家試験の結果が発表されたが、さらに悲観せざるを得ない結果であった・・・。

 

2019年歯科技工士国家試験の結果

3/27に発表された技工士国家試験の結果は以下の通りである。

合格者数は798名!!

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2019年歯科技工士国家試験結果

ここ10年程度の歯科技工士国家試験の推移を見てみたい。

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歯科技工士国家試験推移

2009年は1431名

2019では798名

たった10年程度でほぼ半分である。

25年前は毎年3000人程度いた。

合格率自体は95%以上あるわけで、技工士志望者自体が大幅に減少している事と直結する。

この加速度は絶滅危惧種といえるほどではないだろうか

 

学校別の結果

かなり見づらいが資料を提示しておく。

新卒のところをみると分かるが、受験者数が1桁の学校も多いことがおわかり頂けるだろう。

当然だが、この中に元々の定員が10名未満の施設などはなく深刻な定員割れが伺える。

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2019歯科技工士国家試験学校別1

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2019歯科技工士国家試験学校別2

 

独自に調べた結果を以下に示す。

黄色のマーカーが引かれたところは今年で閉校、学科消滅となった所である。

52校中5校が消滅して47校になった。

定員に対する今年の新卒受験者数が80%を越えている学校は6校しかない。

30%以下の学校を青マーカーで示している。

8校存在しているが、中には10%未満の所もあり、かなり厳しい状況であると言える。

今年の入学者数いかんで47校よりさらに減少する可能性は否定できない。

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2019年歯科技工士国家試験学校別3

なにせ、定員が廃校になった4校抜いて1659名で今年の受験者が761名

761/1659=45.9%

これぐらいしか定員に対して学生がいないことになる。

かなり厳しい学校は4月の初めまで追加募集をしている。

衛生士科など他の科を併設する学校はまだなんとかなりそうだが、技工士科しかない単科の学校で定員割れが深刻な所は相当厳しいだろう。

 

歯科技工士の数は歯科治療に直結

歯科技工士の姿は患者には殆ど見えない。

歯科においては技工物と言われるものを数多く扱う。

最終的に患者の口腔内に装着される被せ物や詰め物、入れ歯などは勿論だが、

製作途中で必要なる咬み合わせを取る装置やその他諸々も技工士が作っている。

 

以前よりも歯科ではデジタル化の波が急速に普及しており、

ある程度CAD/CAMや3Dプリンタなどで技工物が製作できるようになってきている。

 

しかし、やはり人がいないと技工物はできない。

いくらデジタルが進歩しても設計や最終的な調整は人の手が必要になる。

またデジタルの技工物は精度、加工性に問題があるし、限界もある。

従来型の治療はなくならない。

つまり、技工士がいないと歯科治療は成り立たない。

 

技工士が異常に少なくなれば

今まで1週間で出来ていた被せ物は2週間、3週間後になるかもしれない。

また技工料金も大幅に値上げされるかもしれない。

保険治療はかなり安く治療費が抑えられている。

保険で使う金属に含有されるパラジウムはここ10年程度値段がドンドン上がってきた。

ある程度保険点数もそれに合わせて上がってきたが、

ついに保険で金属の被せ物をいれると確実に赤字になってしまうゾーンまで金属価格が高騰。

現在はやや値段が下がったが、はっきりいうと儲けなど殆ど無い。

人件費材料費や光熱水道代などまで考慮すると赤字になる可能性もある。

歯を削る量を少なくして金属量を少なくしよう!なんて考えもあるが、歯を削る量はしっかり規定されており、それを守らないと強度や適合なんかが落ちてしまう。

当然技工士側も作りづらいので、粗悪なものになりやすい。

 

保険外治療を強引に勧める歯科医院も増えるかもしれない。

保険外なら技工料も高くなるが、歯科医院としてもしっかり利潤も出せるわけでこちらもゆとりができ、時間をかけてしっかり治療ができる。

保険外治療にかかる費用は材料費の問題だけではない。

私達歯科医師が保険治療より遙かに長い時間しっかりあなたの歯を治療する、時間のチャージ料でもあるのだ。

精密な治療を短時間で行う事は難しい、というか無理。

料理と一緒で、本当に美味しい物を作りたければ長時間仕込みが必要。

保険治療は利潤が非常に少ないので要点を抑え短時間で終了していく必要がある。

 

保険か保険外かはこちらとしては治療のオプションとして提示するが、

最終的には患者が選択するものである。

それは個々の考えやニーズなどによるので、絶対保険外があなたにいいですよ、とは言えない。

しかし今後、保険外治療をしきりに勧める医院がさらに増えるかもしれない。

そうしないとこっちがやばいからだ。

 

そういった意味で歯科技工士の希少化は最終的に患者に、いや日本国民に悪い意味で還元される。

ある意味、歯科技工士の希少化によって日本の歯科保険治療は崩壊するかもしれない。

歯科はなんだかんだ言っても物を作る所だからだ。

 

厚労省も一応危機感はあるようだが・・・

厚労省も検討会を立ち上げて議論はしている。

歯科技工士の養成・確保に関する検討会|厚生労働省

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歯科技工士の養成・確保に関する検討会

議事録が3回目までしかまだ公開されていない。

読んでみると

技工士に対する過酷な労働条件、低収入、高い離職率

などに関して認識しているものの

まずは学校のカリキュラムに関する状況認識などがメインでなかなか話が進んでいない。

 

しかし、おっと思う所もある。

以下の発言だ。

この検討会ではなかなか話しづらいことではありますが、基本的に、やはり技工料が安いことが一番の理由であって。今の疲弊してしまう歯科技工所、特に保険の仕事などは、やはり人数が少なくて数をこなさなければいけないというのがあるので、どうしても自分にとって上手く作れたなという実感がないまま商品を出荷してしまう。満足感が仕事で得られないまま、どんどんこなすことになってしまう。ある程度、技工料が保たれて、作る数が保険でもある程度定まってくれば、1つ1つの作った物に対する満足感が出るので、現場に行くこととはまた違う、本人の満足感が得られるのではないかと思います。

これは本当にごもっともな意見だと思う。

歯科医師と同じで歯科技工士も保険の枠組みで安い技工料でそれなりの物しか作れないジレンマに悩んでいるということだ。

 

そして今後の展望についても。

口腔内スキャナとは、今までは物を作るためには歯型を取っていたわけだが、それを省いて直接歯をデジタルスキャンしてデータ化することで物を作る方法である。

この世の中、90%以上が保険ですから、やはり今、保険を、自由競争でどんどんダンピングして安くなるという、そこを何とか少し変えないと、大きく変わってこないのではないかという感じがします。ですから、何か委託の料金設定のようなものを、先生方とラボもして、クラウンなら幾らでやりましょうという。厚生労働省が設備構造基準など、いわゆる技工録をつけなさいということをしっかり提示していますから、やはり、そういうことがきちんとできている所が保険を扱える認定ラボだということなど、そういう形を進めていけば、先生方も、やはり同じ値段なら良い技工士の所へ出そうと。そういう雰囲気になってこないと、今の保険医療は国民のためになっていかないというような、少しそんな気がします。

特に今、CAD/CAMとか口腔内スキャナというのが出ていまして、CAD/CAM冠にしても、技工料を安くするために海外にデータを送って海外で設計して日本で削るということをされている所も、実際には出てきています。今度、口腔内スキャナが出れば直接データが飛んでいきますので、もっとそれが激しくなると思うのです。そうしますと、日本の税金が外国の人に払われているという形になってきますので、その辺も私は大きな問題ではないかと思うのです。まず、その現場をもう少し仕切り直していかないと環境は変わってこないのではないか、そういう気がします。

 

前回の議事録を見てもそうなのですが、議事録は公開されますし、国の重要な検討会なので、少し文言に気を付けていただきたいのですが、少し文言に気を付けていただきたいのですが、CAD/CAM冠を海外に外注することは違法ですので、もしそれが現実にあるとすれば、きちんと保健所に届けなければなりません。違法だということはきちんと御理解して発言していただきたいと思います。

やはり大元はお金なんだよね。

こういった際どい議論は是非今後も行って頂きたいと思う。

それぐらい状況は深刻だと思う。

歯科医の皆さん、海外発注は違法です!

 

(2019/04/16追記)

指摘を受けて確認したところ、海外発注はどうも違法ではないが、条件はつけられている。患者の理解と同意が必要と書いてあるので、例えば患者に海外に発注しますよ!と説明して拒否された場合は海外への発注はできない、また説明しなかった場合も当然海外には発注できないということになりそうだ。

 

 

○国外で作成された補てつ物等の取り扱いについて
(平成17年9月8日)
(医政歯発第0908001号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局歯科保健課長通知)
 
 
歯科医療の用に供する補てつ物等については、通常、患者を直接診療している病院又は診療所内において歯科医師又は歯科技工士(以下「有資格者」という。)が作成するか、病院又は診療所の歯科医師から委託を受けた歯科技工所において、歯科医師から交付された指示書に基づき有資格者が作成しているところであり、厚生労働省では、「歯科技工所の構造設備基準及び歯科技工所における歯科補てつ物等の作成等及び品質管理指針について」(平成17年3月18日付け医政発第0318003号厚生労働省医政局長通知)において、歯科技工所として遵守すべき基準等を示し、歯科補てつ物等の質の確保に取り組んでいるところです。
しかしながら、近年、インターネットの普及等に伴い、国外で作成された補てつ物等を病院又は診療所の歯科医師が輸入(輸入手続きは歯科医師自らが行う場合と個人輸入代行業者に委託する場合がある。)し、患者に供する事例が散見されています。
歯科技工については、患者を治療する歯科医師の責任の下、安全性等に十分配慮したうえで実施されるものですが、国外で作成された補てつ物等については、使用されている歯科材料の性状等が必ずしも明確でなく、また、我が国の有資格者による作成ではないことが考えられることから、補てつ物等の品質の確保の観点から、別添のような取り扱いとしますので、よろしく御了知願います。
別添
歯科疾患の治療等のために行われる歯科医療は、患者に適切な説明をした上で、歯科医師の素養に基づく高度かつ専門的な判断により適切に実施されることが原則である。
歯科医師がその歯科医学的判断及び技術によりどのような歯科医療行為を行うかについては、医療法(昭和23年法律205号)第1条の2及び第1条の4に基づき、患者の意思や心身の状態、現在得られている歯科医学的知見等も踏まえつつ、個々の事例に即して適切に判断されるべきものであるが、国外で作成された補てつ物等を病院又は診療所の歯科医師が輸入し、患者に供する場合は、患者に対して特に以下の点についての十分な情報提供を行い、患者の理解と同意を得るとともに、良質かつ適切な歯科医療を行うよう努めること。
1) 当該補てつ物等の設計
2) 当該補てつ物等の作成方法
3) 使用材料(原材料等)
4) 使用材料の安全性に関する情報
5) 当該補てつ物等の科学的知見に基づく有効性及び安全性に関する情報
6) 当該補てつ物等の国内外での使用実績等
7) その他、患者に対し必要な情報
2019年4月18日追記
また、海外発注した技工物を保険請求することはできないという指摘を頂いた。これについては平成18年に安倍首相の名前で答弁が出ている。

 国外で作成された補てつ物等については、老人保健法(昭和五十七年法律第八十号)第六条第一項各号に掲げる医療保険各法による療養の給付又は同法による医療(以下「療養の給付等」という。)の対象とすることについて歯科医師、患者等からの要望があるとは承知しておらず、現時点において、療養の給付等の対象とする予定はない。

この文章から海外発注した技工物は現時点で保険適応はないということがわかる

なので、CAD/CAM冠を海外発注してそれを保険請求し日本の税金が使われる、ということに関してはそれは違法だから!という会議での指摘は間違っていないことになる。

追記終了

 

第2回の議事録にとある技工学校の卒後3年までの離職率が載っていた。

「進路について」です。勤務先は歯科技工所80%、歯科医院が10~20%ぐらいになります。本校の離職率は、今年の3月現在で調べてみますと、卒後1年目。これは2017年3月卒業生、1年たって0%。2年たって、2016年3月に卒業して2年働いた者は14.3%。卒後3年目、2015年3月卒業の学生については8%ということで、本校の学生の離職率については、ネット等で言われているほど悪くはないと思います。大卒の3年以内の離職率が32.2%という数字も出ております。ところが、ネット等では、歯科技工士の離職についてはよくないデータが出ているというのが実情です。

ネットで言われるような20代での離職率80%とはかなり乖離した数字なわけだが、やはり国は全ての学校の離職率を調査すべきではないだろうか?

ネットで噂される情報とこの技工学校の実際が違い過ぎる。

 

歯科医師会も手を打ってはいる

歯科医師会全面協力で歯科技工士を主人公にした映画を製作した。

まだ公開されているんじゃないかな。

笑顔の向こうに : 作品情報 - 映画.com

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笑顔の向こうに

監修が8020運動30周年記念事業映画製作チーム(笑)

こういったプロパガンダは色々方法があると思うが、なぜ映画だったんだろうか・・・。

上層部の意向?

自分ならYoutubeを使うかな・・・と思う。

ちなみに私は観ていないのだが、観た方、是非感想をコメント欄までお願いします。

 

 

終わりに

今年も入学者次第で閉校という事を決定する所はありそうなわけで、今後も学校が減るのは避けられそうにない。

県に1つしかない所も多い。

そこがなくなると、もうその県の技工士数の減少は避けられない。

わざわざ他県まで行って技工士学校に!

なんていう高校生はそうはいないだろう。それなら他業種に行くと思う。

希少化で技工士が人気になるか?

と言われると私はそうは思わない。

それは希少化によりある程度の高収入が約束されるわけでもないからだ。

医学部があれだけ人気なのは、医者になればある程度の高収入が保証されるからだと思う。

技工士にそこまでの期待値は今の所ない。

もちろん腕が立つ技工士で高収入の方はいると思うが、そういった方は保険治療にベースを置いていない。

 

技工士の減少は最終的に国民に歯科治療の質の劣化や高額化として還元される可能性がある。

 

今の技工士の減少傾向は異常であり、せめてのこの右肩下がりをなんとかプラトーに持っていく施策をまず厚労省に求めたいと思う。 

 

以前書いたブログ

日本人技工士が希少価値となる未来は近い? - (続)とある最底辺歯科医の戯れ言集

に対して技工士の方々から色々な感想を頂いた&エゴサして調べた所、

搾取する側である歯科医師が書いた文章だから、イマイチ信用していいかわからない、という技工士側の意見があった。

この意見は凄くショックを受けた。

技工士側からみると自分達は搾取される側であり、歯科医師は悪徳代官みたいなものという認識のようだ。

自分は歯科医師と技工士、もちろん衛生士がコラボすることにより良い治療ができると思っていたが、どうも社会はそれほど単純ではないということなのだろう・・・。

歯科技工士問題に関して真剣に取り組むためには、まず歯科医師がその意識を変えていかなければいけないと思う。

最低でも自分が後20年歯科医師を続けようと思ったら避けて通ることは絶対にできない問題だと思うんだけどね・・・・。

 

今年、技工士国家試験に歯学部を卒業した既卒生が数名合格しているが、そのうちの2名は現役バリバリの歯科医師である。

お一人の方は技工士の需給問題を深刻に捉え、技工士の免許を取り技工士会に入り働きかけたいという意図があるようだが、技工士にとって歯科医師が悪徳代官、または黒船という認識であるなら、その試みも失敗に終わってしまうんじゃないかと危惧している。

 

今後も技工士学校の状況や委員会などを追っていく予定である。

こういうのかいたら、また技工士さん界隈から怒られるのかなあ・・・はあ

 

2019/04/17追記

ついに参議院議員の方にまで関心を持って頂けたようです。

有り難うございます。