(続)とある最底辺歯科医の戯れ言集

日本語が不自由な歯科医師のろくでもないお話 

歯周病原因菌とアルツハイマー病の関連性論文がScience Advancesに

 

 

 

誰もが認知症にはなりたくない

医療従事者であれば、BPSDで大変な認知症の方をみたりする機会もある。

認知症にはなりたくはない・・・。

認知症に対する一般のイメージと実際のイメージはかなり乖離があると思う。

アルツハイマーに代表されるような認知症は変性疾患であり、最終的にそれが原因で死ぬ病気である。

単なる赤ちゃん返りではない。

認知症に対する研究は以前からするとかなり進んでおり、

歯周病の原因菌の1つが認知症で最も多いアルツハイマー型と関連があるのでは?と言われるようになった。

認知症と口の中にいる歯周病原因菌が関係???って最初聞いたときにそんな馬鹿な、眉唾だろーと歯科医である私は思った。

しかし、今色々な本を読んだりしてどうもマジらしいな、と思うようになった。

歯周病原因菌はほかにも全身の色々な所に悪さをしているらしい、ことがわかってきている。

恐るべし歯周病原因菌なのである。

そして、開業医なりによくわからなかった事を少し調べてみたのが、今回のブログ。

間違っている所があれば指摘頂きたい。

 

P.gingivalisさんがががが

Scinece Advancesに衝撃的な論文が来た。

Porphyromonas gingivalis in Alzheimer’s disease brains:Evidence for disease causation and treatment with small-molecule inhibitors

advances.sciencemag.org

Science AdvancesってIF11以上か・・・・

凄いっすなあ・・・・

 

今までの認知症と歯周病の関連についての流れ

私は専門家ではないので、本からそのまま引用させていただく。

興味があったら是非買ってください。

以前も紹介した。

この本もう2年前なんで少し古くなってきているけど、私結構重宝している。

 

歯周病と全身疾患―最新エビデンスに基づくコンセンサス

amazonは売り切れなのでシエン社で・・・

 

この本の130~131ページを引用させて頂く。

1999~2002年のアメリカ国民健康栄養調査(NHANES)のデータを基にした2つの横断的研究では、歯周炎は60歳以上の認知機能に乏しい人と関連がみられたと結論づけている。さらに、NHANESIのデータを用いた報告では、歯周炎と60歳以下の人の認知機能との聞に関連がみられたとしている。

70歳の有歯顎者152名を対象としたデンマークの研究では、歯周組織に炎症がある人は認知機能テストで低いスコアであったと報告している。

前向きの退役軍人歯科縦断研究(VADLS)によると、32年に及ぶ追跡の結果、歯周病の進行が早いほど、認知機能テストのスコアが低くなるリスクが高まると予測されることがわかった。

The Biologically Resilient Adults in Neurological (BRAIN)研究では、10年以上に及んでベースライン時に認知機能に異常がない被験者を追った。MCIとADになった人は、PrevotelLa intermediaとFusobacteriumnucleatumに対ーする抗体価が著明に上昇していた。さらに、ADを患った人はベースライン時にTreponema denticolaとPorphyromonas gingivalisに対する抗体価がコントロール群と比べて高かった。

Kamerは、AD患者ではアミロイドFタンパク質(AsP)の蓄積が特徴であることに着目し、正常な認知機能の被験者のAsPと歯周組織の臨床的アタッチメントロス(CAL)の関係を調べた。その結果、AsPの蓄積とCALの相関がみられた。

60名の軽度から中等度のAD患者を追跡した結果、歯周炎の存在は6倍もの認知機能の減退に関連していることが示唆された。

 

というのが2016年ぐらいまでに分かってきたことのようだ。

どうもアルツハイマー型認知症と口腔内にいる歯周病原因菌は何か関係がありそうだぞ、という感じになってきたが、実際のメカニズムはよくわからないなあ、という感じだろう。

分かってきた事をもとにして作製された歯周病とアルツハイマー病の関連メカニズムが以下の図。これも歯周病と全身疾患―最新エビデンスに基づくコンセンサス131ページより抜粋。

これを確定させるほどのエビデンスはおそらくまだないが、どうもこんな感じなんじゃないかなあ・・・・っていう図という解釈でいいんですかね?

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ADと歯周炎の関連

今回の論文

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Porphyromonas gingivalis in Alzheimer’s disease brains

 

abstractを私なりに訳してみた。

専門じゃないので、間違った事を書いていたら指摘して頂きたい。 

慢性歯周病の主原因であるP. gingivalisはアルツハイマー型認知症の脳内からも検出される。gingipainと呼ばれる毒性のあるプロテアーゼもアルツハイマー型認知症患者から検出され、そのレベルはタウ蛋白とユビキチン蛋白と相関する。マウスの口腔内にP. gingivalisを感染させると脳内におけるコロニー化とアミロイドβの産生増加が認められる。そのため、gingipainはin vivoでもin vitroでも神経毒性を有し、正常な神経機能を営むのに必要なタウ蛋白に有害な影響を与える。この神経毒性をブロックするために、我々はgingipainをターゲットとする小分子のインヒビターをデザイン、合成した。gingipainの抑制によりP. gingivalisの脳内への感染における細菌の負荷は減少、アミロイドβ産生はブロックされ、神経炎症は減少、海馬の神経は助かった。これらのデータからgingipainインヒビターはアルツハイマー病におけるP. gingivalisの脳内コロニー化と神経変性に効果がある可能性が示唆された。

 

なんかさっきの本からするとここ2,3年でさらに急速に研究が進んだようだ・・・。

これからすると、今回デザインされたinhibitorにより

メカニズムの図における

②の細菌の脳内への侵入、脳内でのコロニー化を抑制

③のアミロイドβ産生、タウ蛋白への影響を抑制

④の神経線維の混乱の抑制

ができちゃうかも!!!

ということなのかな?(専門じゃないから自信はない!)

これが本当ならすげええええじゃん!!

 

gingipainとは何か

よくよく考えたらgingipainについて自分よくわかってなかったので調べてみた。

結構古い文献だが載っていたので引用する。

日本語の総説 「歯周病とジンジパイン」2003年

https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/122/1/122_1_37/_pdf

グラム陰性偏性嫌気性細菌Porphyromonas gingivalis(ジンジバリス菌)は歯周炎の発症・進行において最重要視されている病原性細菌であり,菌体表面および菌体外に強力なプロテアーゼを産生する.なかでもジンジパイン(gingipains)は本菌の産生する主要なプロテアーゼであり,ペプチド切断部位特異性の異なるArg-gingipain(Rgp)とLys-gingipain(Kgp)が存在する.両酵素は相互に協力しながら生体タンパク質の分解を引き起こし,宿主細胞に傷害を与え,歯周病に関連する種々の病態を生み出すと考えられている.ジンジパインは歯肉線維芽細胞や血管内皮細胞の接着性を消失させ細胞死を誘導する.こうしたジンジパインの病原性は本菌の保有する病原性の大部分を占めており,それらの特異的阻害薬を用いることや遺伝子を欠損させることによって消失させることができる.ジンジパインは単量体として菌体細胞外に分泌されるだけでなく,外膜上では血球凝集素やヘモグロビン結合タンパク質,LPS,リン脂質と結合した高分子複合体としても存在する.この膜結合型ジンジパイン複合体は単量体よりさらに強力な細胞傷害活性を示す.ジンジパインは宿主に対して強い病原性を発揮する一方で,菌自身にとってはその生存増殖に不可欠であり,ジンジパイン阻害薬の存在下では本菌は増殖できない.最近,歯周病が心筋梗塞,早産・低体重児出産などの全身疾患のリスクファクターであることが指摘されるようになり,これら疾患とジンジバリス菌の関係も注目されている.

実はこの総説ではgingipainに対するinhibitorの話がしっかり載っており、試作検討中と書いてある。つまりinhibitor研究自体はもう相当長い間行われているもののようだ。

 

タウ蛋白が認知症に重要な役割をしている

認知症におけるタウタンパク質(tau protein)もよく知らなかったので調べた。

ふむふむ・・・・ 

日本語です

http://www.jsbmg.jp/products/pdf/BG39-3/39-3-3.pdf

 認知症をその発症原因より分類すると、中毒や代謝異常および血管障害など発症原因が明確なものもある一方、大半は原因不明の脳神経細胞死を伴う神経変性疾患である。これらの神経変性疾患の発症機構は複雑多岐にわたるが、頻度からアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症および前頭側頭型認知症の三つのタイプが重要である。これらの疾患では、それぞれ脳に特徴的なタンパク質の蓄積が認められる。アルツハイマー病ではアミロイドβ(Aβ)とタウタンパク質(以下タウ)が、レビー小体型認知症ではαシヌクレインが、さらに前頭側頭型認知症ではタウ、TDP-43、FUS が蓄積する

 

本文に侵攻

 ぐぬぬぬ、難しいやん・・・生化の論文とか最近読んでなかったから・・・

今回の仮説(もう訳しません)

We hypothesized that P. gingivalis infection acts in AD pathogenesis through the secretion of gingipains to promote neuronal damage. We found that gingipain immunoreactivity (IR) in AD brains was significantly greater than in brains of non-AD control individuals. In addition, we identified P. gingivalis DNA in AD brains and the cerebrospinal fluid (CSF) of living subjects diagnosed with probable AD, suggesting that CSF P. gingivalis DNA may serve as a differential diagnostic marker. We developed and
tested potent, selective, brain-penetrant, small-molecule gingipain inhibitors in vivo. Our results indicate that small-molecule inhibition of gingipains has the potential to be disease modifying in AD.

赤色の所が今回の研究の新規性に関する所なのだろう。

 

前半パートはgingipainがどんな悪さをするのかが解説され、後半に作ったinhibitorがどのような効果を発揮したかが書いてある(斜め読み)。

  

discussionの一部

脳内のP. gingivalisとgingipainがアルツハイマーの病因の主な役割を演じていることが示された。そして治療法に関する新しいコンセプトの大枠が示された。

The findings of this study offer evidence that P. gingivalis and gingipains in the brain play a central role in the pathogenesis of AD,providing a new conceptual framework for disease treatment.

マウスだけでは無く人での臨床実験もやり始めるぜ!っと

In conclusion, we have designed an orally bioavailable, brain-penetrant Kgp inhibitor currently being tested in human clinical studies for AD. The present data indicate that treatment with a potent and selective Kgp inhibitor will reduce P. gingivalis infection in the brain and slow or prevent further neurodegeneration and accumulation of pathology in AD patients.

 

アルツハイマーの治療や予防の可能性に関して進歩的な手法が示された、と言う意味で凄く価値がある論文ということなのだろう。

勿論これですぐにアルツハイマーが治る段階までいけるわけもなく、こういった積み重ねがまだまだ続いていくし、臨床段階でさらに色々な問題も起こる可能性がある。

また以下のリンク先で指摘されているようにこの論文には研究手法と仮説に問題点があるようだ。

 

信じて良いのかどうか迷う論文:アルツハイマー病は歯周病菌が原因?

信じて良いのかどうか迷う論文:アルツハイマー病は歯周病菌が原因?(西川伸一) - 個人 - Yahoo!ニュース

これを読んで思ったが、正常な人の脳にもP. gingivalisはいると、しかしアルツハイマーでは一桁違うレベルでいる。

口腔内の歯周病治療やクリーニングによりP. gingivalisのレベルが下がれば、脳内のレベルも下がるんだろうか・・・??

もしそうなら歯周病管理を定期的にする意味がさらにでてくるなー、と思う。

 

inhibitorは口の中のgingipainにも有効なのか??

歯科として気になるのは、こういったinhibitorの研究はどこまで進んでいるのか?

口腔内の歯周病にも効くのか?

と言うところだろう。

そこら辺はこの論文のリファレンスやpubmedの検索で論文をさらに読んでみる必要性があるが、いかんせん開業医が故にそこまでは今回行っていない。

 

歯周病患者はすぐに言う。

「特効薬があればいいのに・・・、ないんですか?」

そんな簡単な病態じゃないんですよ!と説明するわけだが・・・。

 

ちょっと考えると

①歯周病原因菌はP. gingivalis以外にもある

②元々歯周病原因菌は常在菌である

③単純に細菌側の問題だけで歯周病を発症するわけではない

④口腔内で強固なバイオフィルムを形成しており、抗菌薬や薬剤が通過できない

などを考えると

やはりデブライドメントせずinhibitorだけでなんとかなるというもんでもないだろう、とは思うわけだが、選択的に叩くことができるというのは人を惹きつけるよね!!

 

こういう論文ありますよ、とかこういった本がありますよ、とご紹介頂ける先生方コメントよろしくお願いします。

当方完全初心者開業医でございますので、そこら辺は少し考慮して頂けますと幸いです。

 

後は西田先生のtwitterも参照すべし 

西田先生のTwitterでこの論文の存在を知った。

こういうのを紹介して頂ける非常に有用性の高いアカウントなのでフォローして損はない!と断言!

 

 

参考 

歯周病と全身疾患―最新エビデンスに基づくコンセンサスからの引用で紹介した内容の参考文献

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参考文献