今月2回目のプレジデント
お正月休みを無駄にして、プレジデントの記事を検証したのがこれ
これは医療ジャーナリストの方が書いたコロナと口腔ケアの記事に関して内容がおかしいと指摘したブログである。
そして今日
なんかYahooでトップに載っているプレジデントの記事をみてフイタ。
追記2021/02/13 Yahooトップの記事がリンク切れしたため、プレジデントへのリンクに変更
これ、あの毒だしうがいの先生らしいが、私は1つの方法で何でも解決できるなんていう安易な方法は全く信用していない。
というわけでこの先生の本も読んだことがない。はじめて読んで先入観がないうちに突っ込んでおこうというわけだ。
気になる文章
気になる文章は何点かある。
「口のなかの汚さ」と「感染症の重症化リスク」の関係性は多くの研究で明らかにされています。口のなかが汚いと感染症にかかりやすくなり、重症化しやすくなることは間違いないのです。
この先生の文章全体に言える事だが、断定するわりに根拠が提示されていない。
根拠となる論文を提示するべきである。
一応だが、こちらは総説を提示しておく
口腔細菌 - ウイルス - 宿主相互作用」の視点に立った感染症の発症と増悪機序 今井健一,歯科薬物療法 39(3): 95-103, 2020
なお、この総説、歯科医師である私が読んだ感想としては、かなり口腔細菌と感染症の関係性について積極的な印象を受けた。
in vitroの内容が拡大解釈されているところもあり、この総説を完全に肯定するわけではないことは予め明記しておきたい。
この総説を読むと口腔の汚染と感染症罹患リスク、重症化リスクはあくまで可能性であり、断定されていない。
最近よく言われているインフルエンザの重症化リスクについても、「口腔内細菌を誤嚥している高齢者や要介護者において可能性がある」という記載になっている。
他にも色々論文を当たってみたが、断定できるほど根拠がある論文を見つけることができなかった。この著者の先生は断定しているわけでそれなりに強いエビデンスを持っているのだろう。
口腔ケアをするとインフルエンザの罹患率が1/10になったという最近ネットでも日本歯科医師会も推しまくるエビデンスであるが、ベースとなっている研究は、要介護高齢者に対して週1回専門的口腔ケアを行う事でインフルエンザの発症が抑制されたというものであり、健常な人の通常の歯磨きは想定されていない。
また、本当に口腔ケアが効いたのか、という事に関する交絡の調整がしっかり出来ていない可能性がある。例えば年齢、性別、基礎疾患の有無、などである。また母体数や施設、地域の偏りなども考慮しなければならない。
この論文が発表された当時と今ではエビデンスレベルの求められ方も変わっている。現在ではもっと厳密で大規模な研究デザインが求められるのではないかと思う。
もう一度言うが断言するなら論文を提示するべきである。
COVID-19に関する所もよくわからない
以下の文章だが、???で頭がいっぱいだ。
新型コロナウイルスについては、口のなかにばい菌が多い人ほど重症化しやすいことがわかってきています。そして新型コロナウイルスはインフルエンザと異なり、唾液腺や歯ぐき、舌など、口のなかで増えることも明らかになりました。
コロナウイルス関連の論文は通常より早いスピードで学術雑誌に掲載されていて、どんどん新しいデータが出てきています。そしてそのなかには、新型コロナに感染して重症化した人と、重症化しなかった人の口のなかのばい菌の数を比べてみると、100万倍くらいばい菌が多かったという結果もあったそうです。
もちろん、まだ因果(いんが)関係のすべてが明らかにされたわけではありません。ただ、口のなかを清潔に保つことが、感染症リスクを低下させることは間違いないでしょう。
新型コロナウイルスと口腔の汚染状態に関する論文だが、pubmedを色々と検索したが私は仮説しか見つけることができなかった。
Is there an association between oral health and severity of COVID-19 complications?
さきほどの総説でも可能性として捉えている。
確かに人工呼吸器などを装着されている場合、口腔の汚染はVAP(人工呼吸器関連肺炎)のリスクを向上させ致死率も高い事が知られているし、この総説にも記載されている。
しかし、その話から、やはり口腔ケアが大事だから一般の人も歯を磨こう、歯医者に行ってケアしてもらおう、というのはちょっと論理が飛躍していないだろうか?
普通の健康な人がCOVID-19に感染する、重症化するにあたり、口腔の汚染状態がどれだけ寄与するかは明確にわかっていないはずである。
実際の関連性を示唆した論文を私は見つけることができなかったが、この著者はわかってきていると言ってる以上、そういった論文を知っているに違いない。
何度も言うが論文を提示するべきである。
「新型コロナに感染して重症化した人と、重症化しなかった人の口のなかのばい菌の数を比べてみると、100万倍くらいばい菌が多かった」という文章もかなり引っかかる。
歯垢1gあたりの細菌数は1000億ぐらいと言われている。
プラーク(歯垢)|歯と口の健康研究室|ライオン歯科衛生研究所
ネット上でもよく肛門と同じぐらいと書かれており、如何に口の中に細菌が多いか、それをしっかり掃除をしないと人体に害が出るかを記載しているサイトが多い。
1000億ということは10^11 ということになるので、100万倍というのは10^6だから、
コロナが重症化した人の歯垢1g中に2000億 2×10^11とすると
コロナが重症化しなかった人の歯垢1g中に2×10^5 ということなので20万ということになる。
20万って明らかに少なすぎない?
コロナ重症化した人の細菌数を1兆にしたとしても100万である。
普段1000億いるはずの細菌が100万になれば菌交代現象でもおこりそうなもんだが、そこらへんは専門家ではないのでよくわからない。
気になるのは
100万倍ぐらい
のぐらいである。しっかりとした文献データがあるのならあ、その数字を記載すればいいと思う。ぐらい、と書くこと自体本当に文献データがあるのか疑ってしまう。
色々と検索して見たが、コロナ重症者と軽症者で口腔内の細菌数を比較した論文を発見できなかった。
もし、発見できていない論文にそのデータがあるというなら非常に貴重なものであり、私も是非知りたいところである。
何度も言うが論文を提示するべきである。
終わりに
ほかにも色々と指摘したいところはあるが、そこまで暇でもないのでここまでにしておきたいと思う。
最後に言いたいが、さらっと伝聞形式でエビデンスを披露して根拠である論文を示さないのは詐欺に近いと私は思っている。
あとな、吉村知事、こんな記事に釣られてるんじゃないの!
だからイソジンでも叩かれる。
歯科医が断言、新型コロナが重症化する人としない人は「口の中」が違う(プレジデントオンライン) https://t.co/in2iBi1Spg
— 吉村洋文(大阪府知事) (@hiroyoshimura) January 19, 2021
もうちょっと慎重で科学的な思考をお願いしたいですよ。
こういう意見を頂いてます。
100万倍の論文を私も結局見つけられなかったが、比較的参照されているのは、spee先生も取り上げていた論文だと思う。
— akina (@nakixa) January 20, 2021
そしてどう読んでも仮説の域を出ていない。
『プレジデント』は『ムー』と同じような楽しみ方をする雑誌なのかもしれない。 https://t.co/SehOUT66HB